支店長を拝命したのは入庫30年目、2020年7月のことです。コロナ禍で街の様子は様変わりし、来店されるお客さまはすっかり減ってしまっていました。「こんな時期に支店長になるとは……」。喜びよりも、心配の方が大きかったです。そもそも、支店長に明確な仕事はありません。支店の業績向上、お客さまの対応、部下のマネジメント、本部との調整……。例を挙げればきりがないのです。ただ、コロナ禍の行動制限によって、思うような活動はできずにいました。営業担当がお客さまの自宅を訪問しようとしても、「いそぎでないのなら、今はコロナへの感染が怖いから今度にしてほしい」と断られてしまう始末。このままではお客さまとコミュニケーションが取れず、関係が疎遠になってしまうことは目に見えていました。
そこで目指したのは、とにかく”顔が見える支店長”になることでした。営業担当の訪問に同行するのはもちろん、面会ができないお客さまに対しては、直筆の手紙を一筆箋に入れて投函して回りました。1年間で延べ900名ほどの方に、手紙をお届けしたと思います。コロナの流行が落ち着いてきた頃に、「あなたが支店長の山本さんね。手紙読んだよ。わざわざありがとう」と、来店してくださるお客さまもいました。この施策が正しかったかは、私には分かりません。しかし、少なくともお客さまが声をかけやすい支店長になれたと自負しています。「支店長さんって、こんなに近くで接してくれるのね」。そう言っていただけたときは、小さく心が踊りました。
入寮した日の私に、今までのことを話したら、驚いて飛び上がってしまうかもしれません。それほど私にとっては、予期せぬことが連続したキャリアでした。そうした中でも常々思うのは、私は多くの人に恵まれて、ここまで仕事を続けることができているということ。上司や先輩からのアドバイス、同期からの励まし、後輩のサポート……。周囲の支えなくして、今の私はないと心の底から思います。ありがたいことに、素晴らしい環境を用意してもらいました。今度はそうした環境をつくることが、私の役割だと思っています。若手職員が成長できる支店や職員一人ひとりがここで働きたいと思える支店、そしてお客さまが足を運びたくなる支店。それがこれまでお世話になった方々への恩返しになると信じて、これからのキャリアを歩んでいきます。